みす☆りる 第一章《初日》

第一章《初日》




「・・・ふぅ。疲れた〜」
初日というのに緊張感の欠片もなくぼやいたのはtareちゃんでした。彼女は思ったことをつい口に出してしまう悪癖があるのです。
今日は高校生活の初日。入学式とともにこの学校についての簡単なガイダンスを受け午前中に解散という流れでした。

普通であった中学校のそれと、あまり変わらない普通の教室を見回し、今までのことを思い返しました。

専門高校に進学することを決めたtareちゃんでしたが、どの高校にしようか、その選択に決めあぐねていたのです。

(建築も面白そうなんだけどな〜・・・女の子で建築ってあまりイメージ良くないかな・・・うわっ!なにこれ!北海道にあるよぉ(笑))
などなど。

そんな中、
「ツンデレ募集中!ツンデレな方は今すぐ申し込みを!」
という広告が目にとまったのです。
高校の募集要項にはあるまじき広告でしたが、tareちゃんにはそんなことは気になりませんでした。

「ツンデレが・・・いる・・・だと?」

さらにその学校の紹介文に目を見張りました。
普通の高校ではありませんでした。魔法を専門に扱う専門高校だったのです。
魔法学校とでも呼びましょうか。

どの方面へも莫大な知識を持っていた彼女でも、魔法についての知識は全くありませんでした。
小さな頃から親や教師に「魔法は存在しない」と教えられてきたからです。
彼女の、魔法学校への興味は高まるばかりでした。

そして、気づいたときにはそのミスリル魔法専門高校に申し込みをしていました。

「ガタン!」

その音にはっと我に返りました。
どうやら一つ後ろの席の椅子がひっくりかえってしまったようです。
見てみると女子生徒が椅子ごと後ろに倒れていました。

そもそもお嬢様育ちで人を助けるという発想がないtareちゃんは、なにをするでもなくぼんやりとその有様を眺めていました。
この学校の制服――ブレザーに膝丈のスカートという最近のスタイル――に身を包み、膝を覆う程度のスカートに関わらずニーソックスを穿いている女の子。
髪型はツインテールで、四角いフレームの少し大きめのメガネをかけていました。

「べ、別に助けてもらいたいわけじゃないんだからねッ!!」

tareちゃんの視線に気付いたのか女の子は話しかけてきました。

(この子・・・もしかしてツンデレ・・・?)

「ツンデレ」に異様なほどの興味を持つtareちゃんはその女の子を改めてまじまじと見ました。
その女の子は「えぐ・・・」涙目になりながら机を支えにして立ち上がり――

途中でバランスを崩し、再び倒れてしまいました。

「痛っ!」

幸い椅子の上には転ばなかったので大怪我にはならなかったようです。

「ツンデレ」に惹かれはしましたが、『バカとドジには関わらない』という信念を持つtareちゃんはそそくさと帰ろうとしました。

「ま、待って!」

女の子が呼び止めます。
もちろん、止まろうとは思いませんでしたが――

「足、挫いちゃったみたい。立てないの・・・助けて」

ふと周りを見てみるとtareちゃんと女の子以外は帰ってしまったようで誰も居ませんでした。
さすがに放っておくのは可哀想でしたし、明日責任を問われるかもしれません。
仕方がないので、女の子の手を引いて立たせてあげました。

(とりあえず初日に貸しを作っておいて損はないよね・・・)
とポジティブシンキングもしておきました。

女の子の背丈は標準くらいでしょうか。長身でポニーテールのtareちゃんと並ぶと少し子供じみて見えます。
ついでにtareちゃんが髪を伸ばしているのは、あまり散髪しなくてもばれないから、だそうです。

「次から気をつけてね」

「うん・・・ありがと」

女の子は恥ずかしそうにうつむいています。

「じゃさようなら」

「あ、あの・・・!」

さっさと帰ろうとするtareちゃんをまたしても女の子が呼び止めます。
これ以上は面倒だったので、tareちゃんは無視して帰ろうとしましたが――

「歩けないそうにないから・・・保健室まで連れて行ってもらえる・・・?」



「はい。これで大丈夫よ。小学生じゃないんだからもう椅子から落ちちゃだめだからね」

「ありがとうございます、先生」

魔法学校なのに普通に湿布を貼っている様は逆に違和感がありました。

保健室の先生はllllTllll先生でした。
保健室と言えば、まるっこい温和なおばさん先生をtareちゃんは予想していましたが

「・・・キレイな人ね」

思わず呟いてしまったtareちゃんに、先生はにっこりと笑い返します。

見た目からして30歳は越えていないllllTllll先生はモデルにでもなれそうな美人でした。
若そうでいて、ういういしさや危なっかしさは微塵とも感じられず、まさしく「先生」と呼べるような完璧な人でした。
FPSで言うと、どんな距離やどんな場面でもHSをバシバシ決めるようなタイプです。

肌も白く東北育ちにも思えました。

(青森県出身かもね)

とtareちゃんは見当をつけました。

保健室から出ると、まず女の子は真っ赤になって言いました。

「き、今日はありがとう」

「あなた、名前は?」

お礼にこたえず、tareちゃんはいきなり尋ねました。

「え・・・あたしはたれうろ、だけど」

「私はtare。よろしくね」

「う、うん・・・」

速攻で仲良くなって必ず貸しを返してもらう魂胆でした。
ついで、ツンデレの研究素材としても使う予定でした。
初日にしてはドタバタと慌しかったですが、tareちゃんには満足な収穫があったようです。

「滑り出し順調っと♪」

「え?なになに?」

「ん・・・なんでもないよ。それよりたれうろちゃんはお家どこ?」

「えっと、北海町だけど・・・もしかして電車一緒?」

「そっか。なら、電車じゃないけど車で送ってあげるよ」

「車?ほ、本当にいいの?」

「いいんだよ。友達だしね」

「と、友達・・・」

不思議そうな顔をするたれうろちゃんでしたが、すぐうれしそうに微笑みました。

(ツンデレは根が素直で扱いやすいわ・・・)

tareちゃんは半ば呆れ半ばほっとしました。
そして、暇な時はいじられ役になってもらおうとも思いました。

こうしてtareちゃんの魔法学校での初日は無事終わりました。


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